いくら年収が増えても貯金が増えても、なぜか不安が消えない、もっと欲しいと感じてしまう——。
投資や資産形成をしている人ほど、この悩みに陥りやすい傾向があります。
その理由を説明してくれるのが、経済学の基本原則である収入逓減の法則(限界効用逓減の法則)です。
実は、人は収入が増えるほど1円の価値を感じなくなるようにできています。
そのため資産が増えても、幸福度が上がらない、満足できないと感じるのはあなたの努力不足でもメンタルの問題でもありません。
人間の脳の仕様なのです。
しかし、この法則を正しく理解せずに資産形成を進めると
- 年収が上がったのに幸福度は下がる
- 資産が増えても不安が強くなる
- お金のために人生を消耗してしまう
といったお金の不幸ループに陥ります。
逆に言えば、収入逓減の法則を味方につけるだけで、資産形成の質は劇的に変わります。
この記事では、収入逓減の法則を資産形成にどう活かすか、幸福度を最大化するお金との付き合い方を、どこよりも分かりやすく実例とともに解説します。
収入逓減の法則とは?
資産形成を語るうえで欠かせない概念が収入逓減の法則です。
これは、経済学で古くから知られる基本原則であり、収入や資産が増えるほど追加の1円がもたらす満足度(効用)は小さくなるという考え方です。
人は、お金を得ることに対して無限に喜びを感じ続けるわけではありません。
むしろ、収入が増えるほどお金による幸福度は徐々に鈍化していきます。
たとえば、手取り20万円で生活している人にとっての1万円は、家計をグッと楽にし、生活の質を大きく改善させる金額です。
しかし、年収1000万円の人にとっての1万円は、外食を一回我慢すれば浮く程度の感覚かもしれません。
さらに年収3000万円の人にとっては、1万円は気づけば使っていたというレベルの誤差でしかありません。
同じ1万円でも、受け取り手の収入によって感じ方がまったく異なるのです。
この現象こそが、収入逓減の法則を最も直感的に理解できるポイントです。
つまり、人は生活が安定し満たされるほど、お金で得られる幸福度は緩やかになりやがて停滞していくという性質を持っています。
これは、人間が慣れる生き物であることに深く関係しています。
収入が増えて生活レベルが上がると、その状態が当たり前になりそこから得られる幸福度は薄れていくのです。
そしてこの法則は、単にお金の価値が下がるという話にとどまりません。
資産形成において、収入を追い続けるだけでは幸福度は上がらないという現実を示しています。
収入が増えるほど幸福度は比例して伸び続ける、というイメージは幻想にすぎません。
むしろ一定ラインを超えると、幸福度の増加はほぼ止まり、場合によってはストレスや責任負担の増大により幸福度が下がることすらあります。
だからこそ、資産形成の根本目的はお金を増やすことそのものではなく、安心して暮らせる状態や自由な選択ができる人生を手に入れることだと言えるのです。
収入逓減の法則を理解することは、無限に続くもっと稼がなきゃという呪縛から抜け出し、真に豊かな人生を築くための第一歩になります。
高収入なのに満たされない人が多い理由
「年収が上がったのに幸福になれない」
「むしろストレスが増えた」
——これは多くの高収入層が抱える共通の悩みです。
なぜそうなるのか。
理由は非常に明確で、収入逓減の法則と密接に結びついています。
お金を得ることによる満足度は収入が増えるほど低下しますが、それに加えて高収入だからこそ陥る罠があります。
まずひとつ目は、生活水準の自動的な上昇(Lifestyle Creep)です。
収入が増えると、多くの人が自然と生活レベルを引き上げてしまいます。
家賃の高い部屋に住む、外食の頻度が上がる、車を良いものに変える、旅行の質が上がる…。
これらは一見豊かになった証に見えますが、生活水準は一度上げると元に戻すのが極めて難しい。
結果、出費が収入と同じ速度で増え、心理的な余裕がまったく生まれないという状況に陥ります。
次に、責任・プレッシャー・時間の制約が増えることです。
多くの場合、高収入=職責の重さを意味します。
管理職、専門職、プレッシャーの大きい業務…。
収入が増えるほど自由時間は減り、ストレスは増え、人間関係の摩耗も大きくなります。
収入が上がったから幸せになるはずという期待とは裏腹に、仕事の負荷が幸福感を削り取っていくのです。
さらに、現代特有の問題としてSNSによる比較ストレスがあります。
収入が上がれば満たされるはずなのに、SNSでは自分より豪華な暮らしをしている人、自分より若く成功している人を次々に目にしてしまう。
結果、自分はまだ足りない、もっと稼がないとという不足感に支配され、心理的な満足が得られません。
人間の幸福度は絶対値ではなく、相対値—他人と比べてどうかで揺さぶられるため、高収入ほど比較の罠に陥りやすいのです。
最後に、高収入層に特に多いのが、お金を目的化してしまうことです。
収入が上がると、その成功体験が快感になり、もっともっとと際限なく上を目指し続けてしまう。
ですが、それは永遠にゴールのないゲーム。
数字を追い続ける限り幸福度は上がらず、むしろ不安と焦りという副作用だけが積み重なります。
——つまり、高収入だから幸せになれないのではなく、高収入特有の落とし穴が幸福度をむしばむ構造になっているのです。
この事実を正しく理解することで、あなたの資産形成は、数字のゲームから人生を豊かにするための手段へと変化していきます。
資産形成で数字を追いすぎる人が陥る3つの失敗
資産形成を始めると、多くの人がもっと増やしたい、〇〇万円を突破したいと、いつの間にか数字を追いかける思考になっていきます。
目標設定自体は悪いことではありません。
しかし、数字に執着しすぎると、資産形成の本質から大きく外れ、かえって不幸になる資産形成に陥ってしまいます。
ここでは、特に多い3つの失敗を紹介します。
失敗①:資産が増えても不安が消えない
数字を追いすぎる人がまず陥るのが終わりのない不安です。
資産100万円を達成すれば次は300万、300万貯まれば次は1000万、1000万達成すれば1億ないと不安と、際限なくハードルを上げてしまいます。
この心理状態では、どれだけ資産が増えても安心が得られません。
なぜなら、数字そのものをゴールにしてしまった時点で、ゴールが永遠に更新され続ける無限ループに入るからです。
失敗②:不必要なリスクを取り始める
数字を追うほど、人は短期間で結果を求めるようになります。
そこで陥りがちなのが、
- ハイレバレッジの取引
- 根拠の薄い急騰銘柄への全力投資
- 高配当銘柄への偏った資金集中
- SNSで話題の流行り株に飛び乗る
など、自分のリスク許容度を超えた行動です。
資産形成の原則は、リスクとリターンのバランスにあるのに、数字に飲まれると判断力が鈍り、損失を招く資産形成へと変質します。
失敗③:人生の目的が資産額になる
資産形成の目的は、本来は安心・自由・人生の選択肢を広げることです。
しかし数字を追う人は、気づけば資産額というゲームのスコアが人生の中心になってしまうのです。
この状態では、
- 家族との時間を削る
- 健康を犠牲に働き続ける
- 趣味や楽しみを犠牲に節約し続ける
といった、本末転倒の暮らしになりがちです。
数字を増やすことは目的ではなく手段に過ぎません。
その手段を目的化した瞬間、資産形成はあなたの人生を豊かにするどころか不幸の原因へと変わってしまいます。
資産形成のゴールは数字ではなく安心と自由
資産形成を続けていると、多くの人が無意識に資産額=ゴールという思考に陥ります。
しかし、資産形成の本質的な目的はお金を増やすことではありません。
本当のゴールは、安心して暮らせる状態と自分の人生を自由に選べる状態を手に入れることです。
まず最初に理解すべきは、資産額の大きさと幸福度が比例して伸び続けるわけではない、ということです。
心理学や経済学の研究でも、一定以上の収入・資産を持つと、そこから先は幸福度の上昇が鈍化することが示されています。
つまり、資産1000万円が幸福のピークという人もいれば、2000万円あれば十分と感じる人もいる。
大切なのは数字の大きさではなく、その資産があなたにどれだけの安心感と自由度をもたらすかです。
つまり資産は、人生の選択肢を増やすための道具であって、資産額そのものが人生の価値を決めるわけではありません。
よくある誤解は、もっと資産が増えれば不安は消えるという考え方です。
しかし実際には、資産額が増えるほど守るべきものも増え、かえって不安が強くなることもあります。
〇〇円まで貯めたら安心できるはずだという思い込みは、資産形成を終わりのない競争に変えてしまいます。
ではどうすれば本来の目的に立ち戻れるのでしょうか。
答えはシンプルで、自分にとっての安心ライン、自分にとっての自由ラインを明確に言語化することです。
・半年分の生活費
・無リスク資産〇〇万円
・労働収入に依存しない割合はどれくらいか
など、あなた自身の価値観に基づいた基準を持つことで、初めて資産形成は人生を豊かにするためのプロセスに戻ります。
資産形成のゴールは数字ではなく、心が軽くなる安心と、人生を選べる自由。
そのことを理解した瞬間、お金との付き合い方は大きく変わり、資産形成はあなたの人生にゆるぎない豊かさをもたらします。
まとめ
いかがでしたか?
収入逓減の法則は、一見すると単なる経済学の概念のように思えます。
しかし本質を理解すると、この法則は私たちのお金との付き合い方を根本から変えてくれる強力なメンタルモデルになります。
この記事で見てきたように、収入や資産が増えても追加の1円が持つ価値はどんどん小さくなります。
だからこそ、年収が上がっても満たされない人が多く、数字を追い続ける限り不安や焦燥感は消えません。
もっと稼げば幸せになれるはずだという直感こそが、あなたを苦しめる元凶なのです。
しかし、収入逓減の法則を理解すると、視点が大きく変わります。
幸福は資産額の大きさから生まれるのではなく、安心と自由をどれだけ感じられるかから生まれるということに気づくからです
この視点を持つだけで、あなたのお金の悩みは驚くほど静かに消えていきます。
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