「現金を持っていてもお金は増えない」
そんな言葉をよく耳にします。
確かに、インフレが進む現代では現金の価値は年々目減りしていきます。
しかし、だからといって全てを投資に回すのは危険です。
経済学者ジョン・メイナード・ケインズが提唱した流動性選好理論(Liquidity Preference Theory)は、人が将来の不確実性に備えて現金を持ちたがる心理を説明した理論です。
これは単なる学説ではなく、現代の資産形成にも直結する重要な考え方です。
現金はただの眠るお金ではなく、安心を生む資産である。
その理由を、経済学と資産形成の両面から掘り下げていきましょう。
資産形成で現金を持つことが軽視される理由
近年、SNSや投資系メディアでは、お金を寝かせるな、現金は減価する資産だという言葉があふれています。
特にインフレが進む今の時代、現金の購買力が年々低下しているのは事実です。
そのため、すぐに投資に回すべきだという主張が勢いを増しています。
しかし、この考え方には大きな落とし穴があります。
現金をすべて投資に変えてしまうと、日常生活における不確実性リスクに対応できなくなるのです。
たとえば、病気やケガによる急な医療費、家電の故障、転職や失業といった予期せぬ事態。
こうした支出は、どんなに堅実な家計でも避けることができません。
資産の多くを株式や投資信託、不動産などのリスク資産に集中させていると、これらの資金をすぐに現金化できず、資産はあるのにお金が足りないという状況に陥ることがあります。
さらに、株価が下落したタイミングで生活費を捻出するために資産を売却すると、安値で売る=損失を確定させるという悪循環に陥ります。
こうした投資メンタルの崩壊を防ぐためにも、一定の現金を持つことは非常に重要です。
つまり、現金はリスク回避ではなく安定を生む仕組みです。
現金があれば、相場の急落時にも冷静に判断でき、チャンスが訪れた際にすぐ動くこともできます。
にもかかわらず、現金を持つことが軽視されるのは、増えない資産=無駄という短期的な思考が蔓延しているからです。
資産形成とは、単にお金を増やす行為ではなく、どんな状況でも安心して暮らせる状態を作ること。
その基盤となるのが、まさに現金という最もシンプルで強力な資産なのです。
流動性資金があなたの投資メンタルを守る
投資で最も重要なのは知識やタイミングではなく、メンタルを安定させることです。
どんなに優れた投資戦略を持っていても、相場の変動に心が揺さぶられてしまえば、冷静な判断はできません。
その時、あなたを守る心の保険となるのが流動性資金です。
流動性資金とは、すぐに現金として使えるお金のこと。
預金や普通口座の残高など、引き出そうと思えばすぐに引き出せる資金を指します。
相場が下落すると、多くの投資家がパニックになります。
保有資産の価値が短期間で減少すると、今のうちに売らないともっと損するかもという心理が働き、狼狽売りをしてしまうのです。
ところが、手元に十分な現金があれば、生活費は確保できている、急な支出にも対応できると安心できるため、冷静に状況を見極めることができます。
この安心感こそが、長期投資を継続する最大の武器です。
さらに、流動性資金は守りだけでなく攻めにも役立ちます。
市場が大きく下落した時は、多くの資産が割安になります。
こうしたタイミングで余裕資金がある投資家は、安くなった優良銘柄を買い増しすることができます。
逆に、現金がない人はチャンスを目の前にしても何もできません。
つまり、流動性資金は暴落時のクッションであり、好機を掴むための準備金でもあるのです。
投資における真の成功者は、相場の波に一喜一憂せず、自分のペースで資産を増やしていける人です。
そのためには、生活費の6か月〜1年分を目安に現金を確保し、残りを長期運用に回すのが理想的です。
現金を持つことは臆病ではなく、冷静さを維持するための戦略。
流動性資金は、あなたの投資メンタルを守り、長期的なリターンを最大化するための最強の味方なのです。
投資と現金の黄金バランスは人それぞれ
資産形成で最も難しいのは、どのくらい現金を残しどのくらいを投資に回すかというバランスの判断です。
現金を持ちすぎるとお金が増えず、投資に偏りすぎると急な支出に対応できなくなります。
つまり、資産形成のカギはリスクと安心のバランスにあります。
そして、この最適な比率は、人それぞれのライフスタイルやリスク許容度によって異なるのです。
たとえば、安定した給与収入を得ている会社員や公務員の場合は、収入が途絶えるリスクが低いため、現金比率を20〜30%程度に抑え、残りを投資に回しても比較的安心です。
一方で、自営業者やフリーランスのように収入が変動しやすい人は、40〜60%を現金で確保しておく方が安全です。
さらに、住宅ローンを抱える家庭や子育て世代は、教育費・修繕費など予期せぬ支出が多いため、30〜50%の現金比率が目安になります。
重要なのは、安心して投資を続けられる現金量を把握することです。
精神的に不安を感じながら投資を続けると、相場の下落時に冷静さを失い、売却のタイミングを誤る可能性が高くなります。
逆に、十分な現金がある人ほど一時的な損失に動じず、長期的な視点で投資を続けることができます。
また、年齢やライフステージによっても理想のバランスは変化します。
若い世代は投資リスクを取る余裕がありますが、リタイア後は収入源が限られるため、現金比率を高めることが賢明です。
つまり、黄金バランスは固定された数値ではなく、人生の変化に合わせて柔軟に調整するもの。
その都度、自分の生活リスクを点検し、どれだけ現金があれば安心して投資を続けられるかを基準に、最適な比率を見極めていくことが成功への近道なのです。
まとめ
いかがでしたか?
投資や資産形成というと、多くの人はいかにお金を増やすかに意識を向けがちです。
しかし、本当の意味での資産形成とは、どんな状況でも安心して暮らせる土台を築くことです。
その基盤となるのが、他でもない現金という存在です。
経済学の流動性選好理論が示すように、人は将来の不確実性に備えて現金を保有する傾向があります。
これは決して臆病ではなく、合理的な防衛反応です。
なぜなら、人生にはいつでも予測不能な出来事が起こり得るからです。
投資をする上で、リスクを取ることは必要不可欠です。
しかし、それは安全の上に立ったリスクでなければなりません。
これからの時代に求められるのは、お金を増やす力だけでなくお金を守る知恵。
その第一歩が、まさに現金を持つというシンプルな行動なのです。
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