「老後のために、何十年もコツコツ貯めてきた。それなのに、退職したら1円も使えない。」
通帳の残高が減るたびに胸がざわつく。
旅行の予定を立てかけては、やっぱりやめておこうと閉じてしまう。
もし心当たりがあるなら、あなたはお金の管理がとても上手な人です。
ただ、その貯める力のまま退職を迎えると、お金を使えなくなってしまうことがあります。
実は、退職後にお金を使えない原因は、資産が足りないことだけではありません。
多くの場合、いくらまでなら使っていいのかが見えていないことにあります。
不安の正体さえ見えれば、お金の使い方は変えられます。
そのために必要なのが、貯める力と同じくらい大切な使う力です。
専門用語はできるだけ使わず、数字が苦手な方にも分かるように説明します。
読み終えるころには、漠然とした不安が具体的に確認できることに変わっているはずです。
まずは、なぜ多くの人が使えない状態に陥るのか、その理由から見ていきましょう。
資産を使えない最大の原因は?
退職後に資産を使えない主な理由は、次の3つに集約されます。
- 収入が止まる恐怖:給与がなくなり、減る一方に見える
- 長生きリスクへの不安:いつまで生きるか分からず、必要額を見積もれない
- 取り崩した経験がない:現役時代は貯める練習しかしてこなかった
つまり、お金が足りないのではなく、いくらまで使っていいかが分からないことが原因になっているケースが少なくありません。
だからこそ、貯める力と同じくらい使う力が大切です。
使う力とは、自分の資産と年金の全体像を把握し、根拠を持って計画的に取り崩せる力のことです。
退職後に資産を使えない人が多い4つの理由
理由1:現役時代の貯める習慣が抜けない
数十年にわたって貯めることは善、使うことは悪という感覚で暮らしてきた人にとって、退職した途端に切り替えるのは簡単ではありません。
貯金が増えると安心し、減ると不安になります。
この感覚は、長年の習慣が身についている証拠です。決して性格の問題ではありません。
理由2:老後2000万円問題のイメージが強く残っている
2019年に金融庁の審議会がまとめた報告書をきっかけに、老後には2000万円が必要という数字が広く知られました。
報告書では、高齢夫婦の無職世帯で毎月5万円程度の赤字が出るという家計調査の平均値が示されていました。
ただし、これはあくまで平均的な試算です。
住居費、働き方、年金額によって、必要な金額は家庭ごとに大きく異なります。
それでも2000万円ないと危ないという数字だけが先行し、そこまで貯まるまでは使えないと考える人が増えたといわれています。
理由3:長生きリスクが読めない
厚生労働省の簡易生命表によると、近年の65歳時点の平均余命は、男性でおよそ19年、女性でおよそ24年です。
あくまで平均ですから、それより長く生きる可能性も十分にあります。
何歳まで生きるか分からないことが、お金を使い切ってしまうのではという恐怖につながります。
理由4:医療・介護費への備えが漠然としている
病気や介護にいくらかかるのかは、人によって大きく違います。
ただ、日本には高額療養費制度や介護保険制度があり、自己負担には上限や軽減の仕組みがあります。
制度を知らないままいくらかかるか分からないと考えると、必要以上にお金を抱え込みがちです。
使えないまま老後を過ごすと起こりがちなこと
資産を守ることは大切です。
しかし、使えないことには別のリスクがあります。
| 状況 | 起こりやすいこと |
|---|---|
| 必要以上に節約し続ける | 体力があるうちに楽しめるはずの旅行や趣味を逃す |
| 外出や交際を控える | 人との交流が減り、生活の満足度が下がる |
| 使わないまま亡くなる | 本人の意図とは関係なく、資産が使われないまま相続に回る |
もちろん、相続を残すこと自体は否定されるものではありません。
大切なのは、使わないと使えないは違うという点です。
選んだ結果ならよいのですが、不安で使えないのであれば見直す価値があります。
資産を安心して使うための使う力5つのステップ
ステップ1:年金の見込み額を正確に知る
まずはねんきん定期便や、日本年金機構のねんきんネットで受け取れる年金額を確認しましょう。
収入の柱が見えると、資産で補う必要がある金額が分かります。
不安の多くは、この数字が曖昧なまま膨らんでいきます。
ステップ2:毎月の支出を固定費と楽しむ費用に分ける
支出を2つに分けると、全体像が整理されます。
- 固定費:住居、光熱費、通信費、保険、食費など
- 楽しむ費用:旅行、趣味、外食、家族との時間など
固定費を年金でどこまでまかなえるかを見たうえで、不足分と楽しむ費用を資産から出す考え方です。
ステップ3:繰下げ受給などの制度を検討する
公的年金は、65歳より遅らせて受け取る繰下げ受給を選ぶと、1か月遅らせるごとに0.7%増額されます。
最大で75歳まで繰り下げられ、増額率は最大で84%です(2022年4月以降の制度)。
逆に、それまでにインデックス投資などで資産形成が出来ている場合は、運用を続けながらむしろ繰り上げ需給で収入を長期的に確保するなど選択肢が増えます。
増額された年金は一生続くため、長生きリスクへの備えになります。
一方で、受け取り始めるまでの生活費をどう確保するかや、健康状態、税や社会保険料の負担が増える点も考慮が必要です。
詳しい条件は年金事務所や専門家に確認すると安心です。
ステップ4:取り崩しの上限を自分で決める
海外では、資産の取り崩し率の目安として4%ルールが紹介されることがあります。
ただしこれは米国の市場データをもとにした研究で、日本の環境や個人の状況にそのまま当てはまるとは限りません。
参考程度にとどめ、自分の年金額、支出、運用方針に合わせて年にいくらまで使うかの上限を決めておくことが現実的です。
上限があれば、その範囲内では安心して使えます。
ステップ5:年に1回、計画を見直す
取り崩し計画は一度決めたら終わりではありません。
年に1回、資産残高、支出、体調、物価の状況を確認して調整しましょう。
見直す機会があると思えること自体が、不安をやわらげる大きな支えになります。
まとめ
いかがでしたか?
退職後に資産を使えない原因は、お金が足りないことだけではありません。
多くの場合、いくらまでなら使っていいかが見えていないことにあります。
ここまで見てきたとおり、使えなくなる理由は主に4つです。
- 長年の貯める習慣が抜けない
- 老後2000万円という数字のイメージが強く残っている
- 何歳まで生きるか読めず、長生きリスクが不安になる
- 医療・介護費が漠然としていて、備えすぎてしまう
これらは性格の問題ではなく、情報と経験が足りないだけです。
だからこそ、使う力を身につければ、少しずつ解消できます。
使う力の5ステップは、次のとおりです。
- 年金の見込み額を正確に知る
- 支出を固定費と楽しむ費用に分ける
- 繰下げ受給などの制度を検討する
- 年にいくらまで使うかの上限を決める
- 年に1回、計画を見直す
大切なのは、一度で完璧な計画を作ることではありません。
上限を決めておけば、その範囲内では罪悪感なく使えます。
そして年に1回見直せば、状況が変わっても調整できます。
減ることを恐れるのではなく、どのペースで減るかを把握することが安心への近道です。
使わないまま過ごす老後と、納得して使う老後。
あなたが長い年月をかけて貯めてきたお金は、これからの人生を豊かにするためのものです。
貯める人から、上手に使う人へ。
その一歩を、今日から踏み出してみましょう。
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